01 — Overview
今月の業界総括
2026年6月は、業界全体で「観客と公演の出会い方」を再設計する動きが目立った月だった。ぴあアプリの位置情報機能、雑誌『とぶ!ぴあ』の創刊、ぴあ総研の市場予測発表、そして小劇場向けの実務ガイドの登場——いずれも、検索だけに頼らない「偶発的な出会い」と、現場の運営課題への解像度を上げる動きである。
ライブエンタテインメント市場は2024年7,605億円(前年比10.9%増)、2025年は8,100億円(6.5%増)と予測され、過去最高を更新する見通し。一方で、これだけ拡大している市場の中で、動員に苦慮する公演も依然として多いのが現実だ。市場規模の伸びと、個別公演の成否は、必ずしも一致しない。
編集部の視点としては、「出会いの設計」がチケッティング選定の新しい軸になり得ると見ている。大手プレイガイドのアプリ機能強化も、特化型サービスの実務ガイドも、共通するのは「適切なタイミングで観客に作品を届ける」という課題に対するアプローチだ。
02 — Top News
今月の注目ニュース
大手プレイガイド
2026/04/06
月刊『Monthlyぴあ(とぶ!ぴあ)』創刊——紙×デジタルの新しい接点
ぴあ株式会社が、2011年に休刊したかつての情報誌『ぴあ』の精神を継承する新雑誌『Monthlyぴあ(通称・とぶ!ぴあ)』を4月6日に創刊した。「偶然の出会い(セレンディピティ)」というアナログ体験を復活させながら、QRコードで「ぴあアプリ」「ぴあWeb」へ"とぶ"設計。東宝の新会員サービス「TOHO-ONE」との連携も同時スタートした。
大手プレイガイド
2026/02/26
チケットぴあアプリ「近くの公演」機能リリース——位置情報×UX
チケットぴあのスマホアプリに、現在地から近い公演を発見できる「近くの公演」機能が追加された。TOP画面の「現在地から公演を探す」をタップするだけで、すぐに行ける公演が見つかる仕様。位置情報の利用許諾がオプトインで、許諾しない場合も従来通り使える設計。
市場データ
2026/06
ぴあ総研、2025年ライブ市場8,100億円予測——2030年8,700億円へ
ぴあ総合研究所は、2024年のライブ・エンタテインメント市場規模を7,605億円(前年比10.9%増)と確定。音楽分野5,299億円、ステージ分野2,306億円で、いずれも過去最高を更新した。2025年は8,100億円(6.5%増)、2030年には8,700億円に達する見通し(年平均成長率2.4%)。
特化型サービス
2026/04/25
「小劇場チケット販売完全ガイド」公開——実務知見の体系化
ACTぴっと連携メディアにて、客席50〜300席規模の小劇場主催者向けに「採算・集客・運用の現実とシステム選びのポイント」を体系化した記事が公開された。取り置き・当日精算・キャスト集客といった小劇場独特の文化と、紙とExcelで運用されてきた歴史的経緯に踏み込んだ実務ガイド。
03 — Market Data
市場データの動き
ライブエンタテインメント市場規模推移(ぴあ総研)
| 年度 |
市場規模 |
前年比 |
音楽分野 |
ステージ分野 |
| 2023年 | 6,860億円 | — | 4,758億円 | 2,101億円 |
| 2024年(確定) | 7,605億円 | +10.9% | 5,299億円 | 2,306億円 |
| 2025年(予測) | 8,100億円 | +6.5% | — | — |
| 2030年(予測) | 8,700億円 | CAGR 2.4% | — | — |
出典:ぴあ総合研究所「ライブ・エンタテインメント市場規模」2026年3月公表値。ステージ分野は前年比9.8%増、音楽は11.4%増。
解釈:市場全体は伸びているが、2024年→2025年の成長率は10.9%→6.5%へと鈍化見込み。コロナ禍からの戻り需要が一巡し、業界は新たな成長エンジンを必要とするフェーズに入った可能性がある。アプリ機能強化や紙メディアの復活といった大手の動きも、この問題意識への回答と読める。
04 — Service Updates
注目サービスの動き
位置情報機能「近くの公演」リリース。月刊『Monthlyぴあ』創刊と合わせ、デジタル×アナログの両軸戦略を明確化。「探す」と「出会う」の両方をカバーする意図が見える。
連携メディアで「小劇場チケット販売完全ガイド」を公開。主催者教育コンテンツの体系化へ動き出した。サービス選定だけでなく、運営ノウハウまでカバーする戦略は、長期的な顧客育成に効果が期待できる。
V1サービスは2026年12月31日終了予定。既存ユーザーは早めの移行手続きが推奨される。V2では関係者管理機能の強化、決済手段の拡充、CoRich舞台芸術!との連動深化など、舞台特化型としての強みをさらに磨いている。
シアター情報誌『カンフェティ』が2026年6月号を発行(5月4日発売)。2004年創刊から22年、毎月1,000枚以上の読者限定チケットを継続して提供している強みは健在。チケッティングと連動した独自のメディアエコシステムは舞台芸術業界における重要なインフラだ。
05 — Editorial
編集部の今月の視点
「集客」と「創客」、そして「邂逅」——三層構造で観客接点を考える
今月の動向を整理すると、観客と公演の接点づくりに三つの異なるレイヤーがあることが見えてくる。
第一に「集客」——既存ファンや見込み客に直接アプローチする層。SNS広告、メルマガ、過去購入者へのリピート促進などが該当する。第二に「創客」——主催者が時間をかけて自前の顧客(ファン)を育てる層。小劇場界隈で長く議論されてきた、CRMの本質的な議論である。
そして今月、ぴあアプリの「近くの公演」機能や雑誌『とぶ!ぴあ』の創刊で再浮上してきたのが、第三のレイヤー——「邂逅」(偶発的な出会い)である。能動的に探していなくても、たまたま近くで何かやっている、雑誌をめくっていたら気になる作品があった——という偶然性こそが、新規観客を生む原動力になり得る。
重要なのは、これら三層は競合するのではなく補完関係にあるということ。チケッティングサービス選びにおいても、自社の集客戦略がどの層に依存しているかを意識することで、より戦略的なサービス選定が可能になる。大手プレイガイドは「邂逅」と「集客」、特化型サービスは「集客」と「創客」を支えやすい——という編集部の見立ては、今月の動向でさらに鮮明になった。